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ヘミセクションとは?治療の流れやメリット・デメリットを解説

2024/07/30

ヘミセクションは、歯科治療の中でも特に専門的な処置のひとつで、主に大臼歯などの複数の根を持つ歯に対して行われます。

歯の一部に感染や損傷がある場合、その部分を除去し、健康な部分を保存することを目的とするほか、抜歯の代替手段として、歯を可能な限り保存したい場合に検討される方法でもあります。

ヘミセクションには多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットや注意点なども存在します。

ヘミセクション治療を視野に入れている患者さんは、基本的な概要などを知っておいたほうが安心できるでしょう。

この記事では、ヘミセクションの基本的な概要や具体的な治療の流れ、メリット・デメリットなどについて詳しく紹介します。

ヘミセクションとは

ヘミセクション

最初に、ヘミセクションについて知っておきましょう。ここでは、ヘミセクションの概要や適応が検討される症状、条件、トライセクションとの違いなどについて紹介します。

ヘミセクションの概要

ヘミセクションは、主に大臼歯の治療に用いられる専門的な歯科処置です。以下のような特徴があります。

  • 複数の根を持つ歯に行う
  • 問題のある根が施術対象になる
  • 抜歯を避けやすい

複数の根のうち、感染や損傷があるものだけを取り除き、残りの健康な根を保存します。簡単に言えば、問題のある歯の根だけを切除する治療ということです。

歯をできるだけ保存したい場合に選択されることが多く、歯周病や深刻な虫歯によって一部の根だけが損傷している場合には特に有効とされています。

また、治療後には残った部分をクラウンなどで補強し、健康的に噛む力を維持するケアも行われることが一般的です。

ヘミセクションが検討される症状

ヘミセクションが検討される状況は、複数の根を持つ歯で、かつ、一部の根に対する感染や損傷がある場合です。例えば以下のような症状が代表的です。

  • 歯周病や進行した虫歯により、歯の一部の根が深刻に損傷している
  • 虫歯の根管治療が不十分で歯の一部の根に問題が出ている
  • 根の壁に穴が空いてしまっている

このような場合、ヘミセクションが検討されます。

こういった状況では、ヘミセクションによって問題のある部分を取り除き、残りの健康な部分を保存することで、歯全体の健康を保ちやすくなります。

ヘミセクションをするための条件

ヘミセクションを行うためには、いくつかの条件があります。根の状態やほかの根との兼ね合いなどを確認しなければいけません。具体的には以下のような条件になります。

  • 歯根同士がしっかり離れている
  • 歯根の股部分が浅い
  • 残す側の根が長い
  • 残される部分に十分な強度があり、治療後も噛む機能を維持できる

このほか、患者さんの全身状態や口腔内の健康状態も重要な要素です。特に、歯周病が進行していないこと、歯の周囲の骨や組織が健康であることは欠かせません。

このような条件が整っている場合、ヘミセクションが適用されます。

トライセクションとの違い

ヘミセクションと似た治療法にトライセクションがあります。共通点のある治療ですが同じものではなく、治療対象になる歯根の数で使い分けられます。具体的な違いは以下の通りです。

ヘミセクション
  • 歯根が2本の歯に対して行われる
  • 主に下あごの大臼歯が対象
トライセクション
  • 歯根が3本の歯に対して行われる
  • 主に上あごの大臼歯が対象

上あごと下あごの大臼歯はそれぞれ根の数が違うため、このような使い分けになります。

ヘミセクションもトライセクションも、どちらのほうがより重大な手術という分類ではなく、どちらも重大な手術です。

患者さん本人にも負担がかかりますが、健康な歯になるために頑張っていきましょう。手術前に不安があれば、どんな小さなことでも歯科医師へ相談することをおすすめします。

ヘミセクションの方法と処置後の流れ

ヘミセクション

実際にヘミセクションを受ける場合、どのような処置を受けるのでしょうか。ここでは、ヘミセクションの方法と処置後の流れについて紹介します。

ヘミセクションの方法

ヘミセクションで行われる処置について見てみましょう。途中で歯肉の回復を待つ期間があるため、治療完了までは時間がかかることが分かります。

  1. 根管治療 : 分割する歯の神経を取っておく
  2. 歯を分割する : 歯を股部分で分割する
  3. 歯根を抜く : 対象の歯根を抜く
  4. 歯根部分を整える : 分割した部分をなめらかにする処置
  5. 歯肉を回復待機 : 処置した部分の傷が回復し、歯肉がかぶるまでの待機期間
  6. かぶせ物の作成・装着 : 歯肉が回復したらかぶせ物を作成・装着する

歯肉の回復を待つ期間は個人の状態によって差がありますが、一般的には約2~3か月必要です。施術した部分はデリケートな状態になっているため、丁寧にケアしながら待ちましょう。

ヘミセクションの処置後の流れ

ヘミセクション後の流れは、施術した歯にかぶせ物やブリッジをセットしていくことになります。

また、患者さんの歯の状態や歯科医院の方針によって選択される方法が異なる点にも注意が必要です。一般的には以下のような方法があります。

かぶせ物をセットする
ヘミセクションで切除された部分の歯を補強するために、かぶせ物を装着します。歯の状態や歯科医院の方針により、かぶせ物のサイズが異なることがあります。
元の歯と隣の歯とつなぐブリッジをつける
ヘミセクション後の歯を安定させるために、隣の歯と連結する小さなブリッジを使用します。残された歯と隣の歯をつなぐことで安定性が高まります。

基本的には患者さん個人に最適だと思われる方法が選ばれます。このような処置により、ヘミセクション後の歯の健康と機能を維持しやすくなるでしょう。

ヘミセクションのメリット

ヘミセクション

大がかりな手術になるヘミセクションですが、その分、多くのメリットがあります。ここではヘミセクションのメリットについて紹介します。

歯を失わなくてすむ

ヘミセクションの最も大きなメリットは、抜歯を避けられる点です。自然な歯の機能と見た目を維持し、長期的な口腔の健康を守りやすくなります。

部分的に感染や損傷がある場合でも、ヘミセクションによってその部分だけを取り除くことにより、残りの健康な部分の保存が可能です。

抜歯した場合にはブリッジやインプラントなどの治療も選択できますが、可能な限り抜歯を避けたいと思う患者さんも少なくありません。

ヘミセクションは、そのような患者さんの気持ちに寄り添える治療法です。

噛む力と周囲の組織の健康を維持しやすい

部分的にでも歯を残せることは、抜歯よりも噛む力を残しやすく、周囲の歯への過度な負担を防ぎやすくなります。結果として周囲の歯や歯周組織の健康を守れるため、健康的な口腔環境を維持できるでしょう。

また、噛む力が均等に分散されやすくなる一面もあり、抜歯による顎関節や噛み合わせ関する問題の心配も軽減されます。

長期的には、自然な噛む力を保つことにより、食事や日常生活の質の向上につながるでしょう。

飲食・会話・口腔内の衛生維持に影響が出にくい

飲食や会話、口腔内の衛生維持にもヘミセクションは有効です。日常生活におけるさまざまな面で生活の質を落とさず、場合によっては向上する可能性が高くなります

例えば、噛む力が維持されれば食事の楽しみも維持し続けられるでしょう。発音にも悪影響が出ず、スムーズな会話が可能です。

残された歯があれば歯磨きやフロスなどもできるため、口腔内の衛生維持を今まで通りに続けやすくなるでしょう。

このようなことは、口腔内の感覚や機能を残せるヘミセクションならではのメリットです。

抜歯を視野に入れるすべての症状にヘミセクションが対応できるわけではありませんが、もし対応可能であれば、多くのメリットを考えた上で積極的に検討してみるのもおすすめです。

ヘミセクションのデメリット

ヘミセクション

メリットが多いため、抜歯を視野に入れる症状の際に検討していただきたいヘミセクションですが、一方ではデメリットも存在します。メリットとデメリットを比較した上で、自分に合った治療を選択しましょう。

ここではヘミセクションのデメリットについて紹介します。

術後に痛み・腫れが出る可能性がある

ヘミセクションは外科的な処置を伴うため、術後に痛みや腫れが生じる可能性があります。手術中には麻酔を使用するため痛みは感じませんが、麻酔が切れた後には痛みや不快感が現れることがあるでしょう。

痛みや腫れは通常、長期化することはなく短期間で程度で治まります。その間に痛みや違和感が気になる際には、冷やしたり、医師から処方された鎮痛剤を使用したりして症状をやわらげましょう。

また、術後しばらくは口腔内がデリケートな状態になっており、感染リスクも高まっています。歯科医院で処方された薬を適切に服用し、口腔内を清潔や健康を保つように心がけましょう。

ただし、以下のような場合はすぐに歯科医院へ相談してみてください。

  • 長期間経っても痛みや腫れが引かない
  • 以前よりも痛みや腫れがひどくなってきた

このような場合は一般的な術後の痛みや腫れではなく、何らかのトラブルが起きている可能性があります。できるだけ早めに歯科医院へ連絡しましょう。

通常の歯よりも弱くなる

ヘミセクションは部分的に歯を切除するため、残された歯は通常の歯よりも弱くなります。特に、根の一部が失われることで歯全体の強度が低下し、歯が割れやすくなるリスクには注意しましょう。

治療後には、残された歯を補強するためにクラウンやブリッジなどの補綴物を装着しますが、それでも完全に元の強度を取り戻すことはできません。

ヘミセクションをした部分で硬いものを噛まないようにしたり、歯ぎしりや食いしばりの癖に気をつけるなどの工夫で、健康的な歯を保ちましょう。

また、定期的な歯間検診を受けることにより、ヘミセクションをした歯の状態を歯科医師が細かくチェックできます。

弱っていたり傷んでいたりなどの異常があればすぐに対応できるため、ぜひ定期的な歯科検診も取り入れてみてください。

歯ぎしり・食いしばりがある人は要注意

歯ぎしりや食いしばりの癖がある患者さんは、ヘミセクション後には特に注意が必要です。

歯ぎしりや食いしばりは残された歯に過度な負担をかけ、施術した歯に損傷を引き起こす可能性があります。

ナイトガードなどの装置を使用して歯を保護する方法があるため、歯ぎしりや食いしばりがある人は歯科医師に相談してみましょう。

歯ぎしりや食いしばりは就寝中に無意識に行われることが多く、自覚がない場合もあります。

もしも「歯ぎしりや食いしばりの癖はないはずなのに歯の痛みが気になるようになった」という場合には、歯科医師へ相談してみてください。

歯ぎしりや食いしばり放置すると知らず知らずのうちに歯が傷んでしまいかねません。異常を感じたら早めに対応し、ヘミセクション後の歯の健康を守りましょう。

まとめ

ヘミセクションは歯の一部に損傷や感染がある際に有効な治療法です。抜歯を回避し、自然な歯の機能と見た目の維持ができるため、生活の質の低下を避けられます。

歯を失わずに済むこと、噛む力や周囲の組織の健康を保てること、そして飲食や会話における機能を維持できることは患者さんにとって大きなメリットです。

一方で、術後の痛みや腫れ、残された歯の弱さなどには注意が必要になるでしょう。歯ぎしりや食いしばりの癖がある患者さんは、歯科医師と相談してナイトガードの使用を検討するのもおすすめです。

メリット・デメリットの両面があるヘミセクションですが、自分に合った治療法を探し、お口の悩みを解消していきましょう。

小嶋デンタルクリニックでは、ヘミセクションが必要な患者さんのご相談に対応可能です。今の歯の状態が気になる方や、抜歯以外の治療を希望する方はぜひご連絡ください。

監修歯科医師

医療法人社団GRIT 理事長
小嶋デンタルクリニック 院長

小嶋 隆三Ryuzo KOJIMA

〔院長略歴〕


静岡市出身
鶴見大学歯学部卒 総合歯科
医療法人 麗歯会 加藤歯科医院 勤務
医療法人 UG会 多田歯科医院 勤務
医療法人 清明会 静岡リハビリテーション病院 非常勤 勤務
2013年 小嶋デンタルクリニック開設
2023年 医療法人社団GRIT 設立
2023年 コロンビア大学歯学部歯周病学分野所長兼准教授(1987-2015)、台北医科大学教授、学部長(2017-2023)ピーター・ワン先生の講座へ入局
2024年には、グローバルインプラントブランド「DIOインプラント」において、日本一の年間実績(症例数)を達成。
難症例や骨造成を伴うケースにも精通し、確かな診断力と精緻な技術で遠方からの患者も多く、信頼を集めている。

〔所属学会・所属団体〕


歯科医師臨床研修指導医
公益社団法人日本歯科先端技術研究所 インプラント認証医
BPS(精密義歯)クリニカル国際認定医
公益社団法人日本口腔インプラント学会
ISOI(国際口腔インプラント学会)
日本顎咬合学会
日本スポーツ歯科学会
日本抗加齢医学会
日本歯科医師会
静岡市歯科医師会 2020-2022 理事
静岡市介護認定審査委員